建設業の転職活動で内定通知を受け取ったとき、「月給○○万円(みなし残業○時間分含む)」という表記を見て戸惑ったことはないでしょうか。
一見すると月給が高く見えても、みなし残業分を差し引くと基本給は意外と低い、ということが建設業界では珍しくありません。工期に追われる現場の性質上、固定残業制度は多くのゼネコン・サブコン・設計事務所で採用されています。それ自体が違法ではありませんが、理解せずに合意するとミスマッチを生む可能性があります。
この記事では、みなし残業の仕組みを正確に把握した上で、内定後の給与交渉の場でどう確認し、どう自分の希望を伝えるかを、現場実務の言葉で具体的に解説します。
みなし残業(固定残業代)とは何か
制度の基本構造
みなし残業とは、「あらかじめ一定時間分の残業代を月給に組み込んで支払う」制度で、法律上は固定残業代制度と呼ばれます。たとえば「月給35万円(固定残業代4万円/月30時間分を含む)」と明示されている場合、30時間以内の残業であれば追加の割増賃金は発生しません。
重要なのは以下の2点です。
- みなし残業の時間数と金額が給与明細や雇用契約書に明示されていること
- みなし残業の時間を超えた分は必ず追加で支払われること
この2点が満たされていない場合は、労働基準法上の固定残業代として認められないケースがあります。制度の適法性は法令改正によっても変わるため、最新の解釈は必ず厚生労働省の公式情報や専門家に確認してください。
建設業でよく見られる設定パターン
施工管理職の求人では、みなし残業の時間数は「月30〜60時間程度」の幅で設定されていることが一般的と言われています。工期の集中する工事現場では、繁忙期に残業が増えやすい構造があるため、ゼネコン・サブコン問わず広く使われています。
注意が必要なのは、みなし残業時間が多いほど基本給の計算が複雑になる点です。月60時間分の固定残業代を含む求人では、基本給相当分はかなり低く設定されている可能性があります。賞与や退職金が基本給連動の場合、生涯賃金に影響することもあります。
内定通知書・条件提示書で確認すべき5つのポイント
内定後に受け取る書面を読む際は、以下の観点で一つひとつ確認していきます。
① みなし残業の時間数は明示されているか 「固定残業代として月○時間分を含む」という記載が必要です。時間数が書かれていない場合は必ず確認を求めましょう。
② 超過分の精算ルールはあるか みなし残業を超えた場合の支払い方法(翌月精算か当月か、申請が必要か自動計算か)を確認します。現場では月末に工程が重なり、急激に残業が増えることがあります。精算のルールが曖昧だと後でトラブルになりやすいです。
③ 基本給と固定残業代の内訳を分解できるか 内定通知書に「月給○○万円」とだけ書かれている場合は、そこにみなし残業代が含まれるかどうかを確認し、分解した数字を書面で示してもらいましょう。
④ 賞与の算定基礎は何か 賞与が「基本給の○ヶ月分」となっている場合、固定残業代を除いた基本給が低ければ、賞与額も相対的に小さくなります。
⑤ 現場手当・資格手当は別途支給されるか 施工管理では現場手当が別途設定されている企業もあります。みなし残業代の外に資格手当(1級施工管理技士、建築士など)が乗る構造かどうかも確認ポイントです。
「年収」を正しく比較するための分解方法
給与交渉に臨む前に、転職前後の年収を正確に比較することが欠かせません。単純に月給の額面だけを比べると、みなし残業の違いによって実質的な条件差が見えにくくなります。
現職の年収を正確に棚卸しする
まず現職の直近1年間の収入を次の要素に分解してみましょう。
- 基本給 × 12
- 固定残業代(現職にみなし残業がある場合)
- 実際に支払われた残業代(変動分)
- 各種手当(現場手当・通勤手当・家族手当・資格手当など)
- 賞与(実績ベース)
この合計が「現職の実質年収」です。現場の繁忙期に残業が多い職場であれば、変動残業代がかなり大きな割合を占めることもあります。
内定先の年収を同じ軸で試算する
次に内定先の条件を同じ要素に分解します。みなし残業○時間分の固定残業代がどれだけかを確認し、「もし毎月みなし時間を超える働き方をすると、実際に追加支給されるのか、されないのか」を想定します。
両者を同じ項目で並べて比較することで、数字の比較ではなく条件の比較ができます。
給与交渉の場で使える確認・交渉フレーズ
確認フェーズ:まず現状を正確に把握する
交渉の前段として、曖昧な点を確認するフェーズが重要です。相手に不信感を与えず、かつ必要な情報を引き出すためのフレーズ例を示します。
「給与条件についてひとつ確認させてください。固定残業代○時間分とのことですが、これを超えた場合の差額は別途支給していただけるという認識でよろしいでしょうか。」
「基本給と固定残業代の内訳を書面でご確認させていただくことは可能でしょうか。賞与の算定基礎がどちらになるかを把握した上で条件を検討したいと思っています。」
これらは「交渉」ではなく「確認」のトーンで問いかけることが大切です。採用担当者も内実をきちんと説明する義務がありますので、丁寧に聞くことをためらわないでください。
交渉フェーズ:根拠を持って希望を伝える
確認が取れた上で、改めて希望を伝える段階に進みます。以下のようなフレーズが実務的です。
「現職では基本給をベースに試算すると年収○○万円ほどになっています。御社の条件と比較すると固定残業代の扱いが異なるため、もし調整の余地があれば基本給部分を○万円程度にしていただけると大変ありがたいです。」
「1級建築施工管理技士の資格手当については、現職では月○万円いただいていました。御社での扱いはいかがでしょうか。」
ポイントは、感情ではなく事実と根拠で話すことです。「もっともらいたい」ではなく「現職との差分がどこにあるか」を具体的に示すことで、採用担当者も社内で動きやすくなります。
交渉が難しいケースと代替案の打ち手
給与の引き上げが難しい場合でも、交渉の余地は他にあります。
- みなし残業時間の上限を下げてもらい、基本給を同額維持する
- 資格手当の新設・増額を求める
- 入社後の昇給スケジュールを明文化してもらう
- 試用期間中の給与条件を本採用条件と同等にしてもらう
建設業界では、入社後の評価制度が属人的になりがちな企業も多いです。口約束の「半年後に見直す」は残念ながら実現しないケースもあります。条件は可能な限り書面で残すことを強くおすすめします。
建設業特有の「みなし残業の落とし穴」
工期・工種によって残業実態が大きく変わる
施工管理職は、担当する工事の工期・工種・規模によって残業時間が大きく異なります。同じ会社に入社しても、RC造の新築現場に配属されるのか、改修工事担当になるのかで月の残業時間は変わります。
「前任者の残業実績はどのくらいでしたか」と面接・交渉の場で聞くことは、みなし残業が実態に合っているかを判断するうえで有効な確認方法です。
「残業代込み」の月給が高く見える問題
転職サイト上の月給表記は「みなし残業代込み」の金額が掲載されていることが多く、一見すると高い給与に見えます。求人票の読み方として、みなし時間数と金額の記載を先に確認する癖をつけると、比較の精度が上がります。
時間外労働の上限規制との関係
建設業は、時間外労働の上限規制に関して段階的に適用が進められてきた経緯があります。みなし残業を超える残業が日常化している職場では、制度そのものの運用が適切かどうかも確認ポイントになります。法令の詳細は改正が続いているため、最新の内容は必ず公的機関の情報で確認してください。
交渉後にすべきこと:合意内容を書面で確認する
口頭での合意は後からトラブルになることがあります。内定後の給与交渉がまとまった場合、必ず以下を書面で確認しましょう。
- 月給の総額と、その内訳(基本給・固定残業代・各手当)
- みなし残業の時間数と、超過時の精算方法
- 賞与の算定基礎と支給実績(可能な範囲で)
- 試用期間中の給与条件
雇用契約書に記載がない場合は、メールで条件を文章化して送り、採用担当者から内容確認の返信をもらうことで証跡を残す方法も有効です。
よくある質問
Q1. みなし残業が「80時間」に設定されている求人は断った方がいいですか?
一律に断る必要はありませんが、慎重に判断することをおすすめします。みなし残業が長時間に設定されている場合、それだけ恒常的な残業が見込まれている職場である可能性があります。面接の場で「実際の平均残業時間」を確認し、みなし時間と実態がどの程度乖離しているかを把握した上で判断しましょう。超過分がきちんと精算される仕組みがあるかどうかも重要な判断材料です。
Q2. 給与交渉をすると内定が取り消されることはありますか?
適切な根拠と礼儀ある態度での交渉であれば、内定取り消しに至るケースはほとんどありません。むしろ、現職との条件を比較した上で誠実に確認・交渉することは、採用企業から見ても計画性があると映ることが多いです。ただし、過度な要求や一方的な態度は関係を損ねるため、あくまでも「確認・相談」のスタンスで進めましょう。
Q3. 転職エージェントを使っている場合、みなし残業の交渉はエージェントにお願いできますか?
はい、エージェント経由の転職では、給与条件の交渉を担当者に代行してもらえる場合があります。エージェントは企業の採用担当者と直接やり取りするため、求職者本人が言いにくい条件交渉を間に立ってすすめてもらえる点がメリットです。ただし、エージェントが企業側の意向を優先する場合もあるため、自分の希望と優先順位を明確に伝えた上で相談することが大切です。
建設タレントサーチ キャリアアドバイザー
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